◆◆◆リレーエッセイ《秋》◆◆◆

孫の初恋?           水野 敬美

 

 孫が保育園に通っている。女の子である。

 

 少しずつ言葉がではじめたと、思っていたら二歳の誕生日をむかえると、簡単な会話ができるようになってきた。

 

 会話は、気持ちをこめることからはじまる。

 

まず、いや、いやが、はじまった。

 

おはよう、こんにちは、と挨拶のできるようにと、周囲は心を配っているのに、いやいや、ばかり。じぶんの主張からはじまった。

 

まあ、第一反抗期か? と見守ることにしていたら、保育園の男性保育士からの話を聞いて、おどろいた。

 

その日、孫はお昼寝をいやいやといい、ふとんの中にはいらない。若い男性保育士は他の子を、寝かしつけるのに忙しい。本人の要求どおり、そのまま部屋で少しあそばせていた。三十分程経ち、半分くらいの子どもが眠って静かになったころ、孫も眠くなって、保育士に、両手を広げて「だっこ!」の要求をした。

 

保育士は、他の子を寝かしつけているので、ひとりで寝るように、と目で布団の方へ合図をおくった。

 

いやいやいや、と大きく首をふる。

 

泣かれては困るので、保育士はあわててその場から移動し、孫のところへきて抱いて布団にいれた。そしてさっきの続きの子の場へもどろうとすると、

 

「だめ! とんとんして」と、自分の胸をたたいた、という。

 

その男性保育者は、「まいったあ」と、思いながらいわれるまま、とんとんと孫の胸をやさしくたたくと、すやすや、すぐ寝付いていった、という。

 

苦笑まじりの保育士の話に、私もにが笑い。

 

確かに、自己主張のできる子にしたいと、育ててきたつもりだけれど・・・。

 

そして思った。

 

ことばはなんとすばらしいか、と。しかしこれはわがままそのものではないか。まるで家と同じである。

 

集団の中での遠慮を身につけさせるには、どうしたらいいのだろうか。そんなことを悩みながら、その保育士にふたつも、みっつも頭を下げた婆ちゃんである。

 

仕事から帰った娘に話すと、うなずきながら、孫はその保育士がお気に入りだと弾んだ声でいう。

 

「大好きな先生だもん、初恋かもね!」

 

と、のんきな答え。

 

婆ちゃんの悩みが二重に増えたのだった。

《作者紹介》

水野 敬美(みずの・たかみ)

1943年、名古屋市生まれ

日本民主主義文学会 会員

主な作品 「ゆたか物語」(共著)

「てのひら作品集」ほか

大河ドラマ「真田丸」        新谷 弾

 

 今年のNHK大河ドラマ「真田丸」が面白い。真田信繁(幸村)を主人公に描かれた戦国末期の物語。何度も取り上げられた時代だが、そこは三谷幸喜脚本。飽きさせない。例えば、豊臣秀吉の甥・関白秀次の「謀反事件」を実は「うつ病による自死」と描いたのには驚いた(そういう説もあるらしい)。こういう具合に三谷氏の新解釈で手あかのついた題材がどう展開するか分からず、つい見入ってしまう。久し振りに見ごたえのある大河ドラマだ。

 

 魅力はもちろんそれだけではない。人物が深く描かれている。単純ではない。嫌な奴かと思ったらいい所もある。堅物かと思ったら笑わせてくれる時もある。考えてみれば、人間だから色々な面があるのは当たり前かもしれない。家族同志のやり取りもよくあり、「ファミリードラマ」としても楽しい。

 

 その中で、私が一押しなのが徳川家康。前半はとにかく笑わせてくれた。すぐ弱音を吐く。愚痴をこぼす。気が小さい。ストレスがたまると爪をかむ癖があるらしく「かまない!」と側室に叱られる。家臣たちに励まされなんとかがんばっているが、どこか可笑しい。「神君・家康公」と尊敬するファンからはNHKに抗議が随分来たらしいが、私は過去の家康の中では一番好きだ。演ずる内野聖陽氏もこの家康には苦笑したらしいが、これから段々天下取りに向けて主人公の前に立ちはだかる強敵になっていくようだ。

    そして、私が今回の家康を好きなのは、ふと見せる優しさだ。宿敵秀吉の死の知らせにそっと手を合わせる。その瀕死の秀吉に徳川に都合よい遺言状を家臣たちが無理矢理書き直させようとする場面では一瞬だが痛ましい表情になる。人として共感できる優しさなのだ。歴史上の人物だが、人間としての基本の思いは我々と同じだと思わせる。そこが感情移入できるのかもしれない。ドラマや小説等受け手に共感させることはその作品世界に引き込ませる大事な要因だ。

 

「真田丸」は物書きとして参考になる所が沢山あると思う。これだけ大勢の登場人物、長編を描くのはさすがに私には無理だが、毎回勉強になる。

    物語はいよいよクライマックス。関ケ原の戦いを経て、大阪の陣へと向かう。魅力的な登場人物たちを最後までどう描き切るか。目が離せない。

 

未見の方はぜひご覧あれ。

 

《作者紹介》あらたに・だん

「名古屋民主文学」編集委員